L vision No.7 《Vision…空想、幻》Lucien Piccard

あなたは一目惚れの興奮を、思い出せますか?

まだ暑さが残る9月。大切に使いこまれた革のカバンを片手に、馴染みある方がご来店された。

「あの時計、まだありますか?」と探すのは、以前Facebookにアップしたルシアンピカールの時計。
まだありますよ、とご要望の時計をお渡しすると、決断までにそう時間はかからなかった。

「買います。」

まるで深海のような奥深い青に浮かぶ大陸。
落ち着いた輝きを放つゴールドと、上品さを引き立てるバーガンディのベルトがマッチした一点。

久野さんは数年前から当店に足を運んでいただいて、何度か時計もご購入頂いた事がある方だ。
今回の時計はFacebookで見て一目惚れしたが、なかなか来店できなかったそう。
今回だめもとで聞いてみたらあったので即決でした、と柔らかい物腰で語る久野さん。

今回はベルトも交換したいとのことで、お持ちの時計を持ち込んでのご来店だった。


時計の着け方は人それぞれだ。
大切な日にだけ着ける人もいれば、ほとんどつけずに鑑賞して楽しんだり、ファッションに合わせてその日を共にする時計を選んだり。

久野さんは、二日に一回必ず着けるそうだ。
と、ふと着けている腕を見ると、右腕。どうやらペンを握る手も右。
最初に付けたのが利き手だったから、と時計は利き手である右に着けているそうですが、たまにぶつけて心配なんだそう。
しかし、一度習慣づいてしまったらなかなか変えられない、ですよね。

いいんです、時計の着け方は人それぞれ。

この日着けていたのは、以前当店でご購入頂いたもの。
真ん中に教会のシンボルマークのような模様と、二匹の馬が繊細に描かれた幻想的な文字盤が目を引く。
他にない文字盤と、針が経年劣化によって虹色になっているところがお気に入りだそう。

大人になるにつれて、一目惚れのはずなのに一歩踏みとどまって優柔不断、しまいには後悔することが増えたような気がする。
そもそも、最後に一目惚れで買ったものってなんだっけ…。

こうして一目で「欲しい!」と思うものに出会うことは簡単じゃないはず。
こういう出会いを大切にしてみるのもいいかもしれない。

うん、そうしよう。

久野さん、突然の取材にもかかわらずご協力いただきありがとうございました!