L vision No.005《Vision…展望》SEIKO Cronos

そろそろ日が沈み夜へと移り変わっていこうかという時間に、趣味のフィルムカメラをぶら下げいつものテンポでゆらりと店に入って来たのは近所に住む行本さんだ。

先日入荷したばかりの革巻きペンを手に取り、「今まで文字通りの三日坊主だったけど、今度こそ続けてみようと思っているんですよ。気に入ったペンがあれば続けられる気がする」。

何かと思えば「日記」のこと。日記はおろかスケジュールさえもまともに記したことがない者からすれば三日坊主でも尊敬する。「オイルレザーのハンドメイドだから使い込むと味が出てきて、毎日書くのが楽しいですよ」との説明を聞いたうえでなのかそうでないのか「キャップとの境目が奇麗なやつがいいな」と、独特の目線でじっくりと選び始める。

「うん、これがいい」

試し書きをすすめると取り出したメモ帳にさらさらさらと。さすがは美大出身。試し書きといえばグルグルと線を書くことしかできない者としてはこうゆう才能には憧れしかない。

腕元には少し焼けた文字盤が良い味わいを醸し出しているセイコーのビンテージ。「オメガも買ったけど普段はいつもこっち」というオメガもこのセイコーも当店でお買い上げ頂いた時計だ。

愛用の理由を尋ねると「自然に一緒にいられる」から。その前に使っていた1万円くらいの時計はどこかしっくりこなかったらしい。手巻きの時計は使っている実感があるから毎日着けたくなる、というのは機械式時計好きなら誰もが納得する魅力の一つだ。

グレー色のレザーベルトがビンテージの風合いにも、この日の服装やカバンにもとても良く似合っている。きっと他人が良い勧めるものより、自分にちょうど良く合う物をしっかり選んでいるんだろう。

どこか違った時間軸の中で生きている、そんな穏やかな空気を纏う行本さんがこんどサークル仲間と写真展をやるらしい。

場所は新宿御苑近くのフォトギャラリーPlace Mにて。きっと人柄が現れたような素敵な写真なんだろうな。

帰り際、「そうだ、全然関係ないことなんだけど、よかったらこれ貰って」と大量のパンを置いて行ってくれた。


第15回写真展 【Exchange】 2108年10月22日(月)~ 10月28日(日)12:00~19:00

http://www.photo-ito.com/