#11 時計洗浄機第一号(1936年)

時計の分解修理はムーブメントのほぼ全てを分解して各部品を洗浄するのですが、微小な部品の一つ一つを手洗いするのは大変な手間がかかるため、現在では全自動の超音波洗浄機を使うのが一般的です。時計部品専用の洗浄機が何社かより発売されていて、日本では「ヴェルボクリーア」という会社が製造しています。そして、そのヴェルボクリーア社の洗浄機の第一号機は近江神宮にある時計博物館に陳列されているようなのですが、なんと同じものがこのお店にもあります。
(以下資料より引用)

時計技術士として30余年米国で研修を積んだヴェルボクリーアの創設者降矢甚之助は1931年(昭和6年)日本における時計修理業界に機械化された分解修理の普及を計画し、「時計洗浄機」の考案、研修に専念するかたわら、米国人化学者バッツとともに時計の為の洗浄液を調合する実験をくりかえしていました。ようやく目鼻がついて住み慣れた米国をはなれて帰国、さらに日本の業界に合った機械に改良をつづけ、1936年(昭和11年)夏、機械の完成(専売特許を取得)と同時に洗浄液も日本の温湿度に適応した調剤法を考案、量産体制の時期に到達しました。

しかし、”ブラシとツマヨウジ”による手洗いだけの分解掃除が時計技術士の腕前とされていた当時は、このようのな特異な方法は容易に採用されず、まず、啓蒙運動が先でした。幾多の困難をのりこえて全国的に本機の普及宣伝機関を設け、機械化修理による能率向上と洗浄効果のすばらしさが次々と認識され、驚異的発展の時期を迎えました。当時の日本の国威も手伝って米国、フランス、ドイツ、東南アジアなど海外にも続々と愛用者を獲得しましたが、第二次世界大戦とともに日本は資材不足に禍されて機械化修理の一時中絶、戦後、米軍の進駐によって時計の分解掃除は機械仕上げによるものということから、機械化が再び重要視されました。

ということで80年前に作られた記念すべき国産の時計洗浄機の第一号でもあるようです。コンパクトでも作りはずっしりと重厚で、クローム色のアームや金属製の黒いボディはまるで蒸気機関車のようです。このような戦前のものが綺麗に残っているだけでもすごいと思うのですが、なんとこれはまだ動きます。恐るべし、日本のものづくり。そして当店で普段使用している洗浄機もヴェルボクリーア社製。これはこれでかなり古いタイプでデザインは現在のモデルよりレトロな感じです。こちらも全然問題なく使えています。ただ、洗浄が終わったことを知らせる音がサイレンのような大きな音で、慣れないと毎回ビクッとなります。

ちなみに現在販売されている時計用の超音波洗浄機は日本製も海外製もそこそこの新車が買えるくらいのお値段なのですが、当時の一号機は一体どのくらいの価格だったのでしょうか。