L vision No.001《Vision…先見》CITIZEN & LIP

都心から近いながら閑静な街並みと古き良き商店街があり、そのなかでも古くから地元に愛されるお店と新しくモダンなお店、両方が混在する街、豪徳寺。

そんな豪徳寺でビンテージ時計を修理・販売しているお店として地元の方、遠方の方、幅広い層に親しまれるお店、”L o’clock”。

そう、今回インタビューさせて頂いたのは、ご存知の方も多いかもしれません。
当店の店主《L o’clock・店主 秋山さん》です!

エルオクロックを始めてから丸5年。あらためて振り返ると、時計を扱うようになったのも、このお店を始めたのもいくつかの偶然とタイミングが重なった結果だと言います。

「そもそも時計の修理がしたかったというより、修理の仕事を探していてそれがたまたま時計だった。お店をやるようになったのも、前に勤めていた会社で先が見えないと感じていた時に住んでいた豪徳寺に安い物件があってそこでやってみることにした。」

メインで扱う1960~70年代ビンテージウォッチも、当時は自分の修理の技術で出来るところから、という理由で始め、もともとビンテージウォッチが特別好きではなかったそう。

「60~70年代は庶民にも時計が普及していた時代で生産数も多く部品の在庫も豊富なので、その年代に絞って販売をすることにしました。」

その後、現スタッフの福島さん(通称スタッフF)も加わり、2坪弱のスペースでは手狭になって今の場所に移転。「馴染みのお客さまも増えていたので同じ豪徳寺がよかったんですよね。」

先見というより、その時の流れや出来事に導かれながら今に行き着いたような。そんな秋山さんのお気に入りの時計は店主らしいレアな時計、かと思いきや…

「75年製のCITIZEN Homerです。これは今から10年以上前、前の会社に勤めていたころに練習用に駅中のイベントで買ったジャンク品。たしか二、三千円くらい。その時にこれは75年製だよって教えてもらった。」

このホーマーはもともと国鉄職員に支給された時計で裏蓋に製造年と支給された鉄道名などが記録されています。これに記されている「東南鉄」は現在の南武線のあたりを管理していた東京南鉄道管理局の略。

「南武線は自分の地元の路線だし75年は生まれ年で、時計自体は別に高価なものじゃないけど大切な時計。ベルトは今の店舗に移転する際にHIRSCHの方から頂いた最高級アリゲーターで、色はお店のイメージで選んでくれました。」

それでは買いたい時計を聞いてみると、これまた意外にも店頭で販売しているLIP MACH2000との事。

「高校生くらいのころに見ていた雑誌の中のパテックとかロレックスはあまりにも高すぎたし、手が届きそうな時計の中で個性的でポップなデザインのLIPが印象的だった。」
時を経ていま、雑誌で見ていたLIPを自分の店で販売していることが不思議だ、と。

ビンテージウォッチといっても数万から数百万まで。でも、幅広い時計の中でお店で取り扱うのは手頃な価格帯の時計がほとんどです。

「”修理品”として見ていた部分が多かった古い時計だけど、販売するようになってからビンテージウォッチの魅力に気づかされることが多い。一般的に普及していた時計でも時代が変わって価値観が変わってきたり。それもビンテージの面白さだと思うんですよね。」

そして”修理して長く使う”ことにも意味があると語る秋山さん。

「買った時の値段より修理費用が高くなってしまっても自分が大事にしたければお金をかけてもいいと思うし機械式の時計はそれが出来る。モノには値段じゃない価値があると思うんです。」

文・写真 神 瑞希